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名古屋地方裁判所 昭和35年(行)18号 判決

愛知県瀬戸市品野町下品野六五五番地

原告

有限会社 丸由製陶所

右代表者代表社員

田中由五郎

右訴訟代理人弁護士

富島照男

名古屋市中区南外堀町六丁目一番地

被告

名古屋国税局長

奥村輝之

愛知県瀬戸市熊野町

被告

尾張瀬戸税務署長

津金胤正

右被告等指定代理人

松崎康夫

小林高松

山本義雄

川村俊一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

「原告の昭和三一年度(昭和三一年三月一日以降同三二年二月二八日迄)の所得金額を二〇万八、八〇〇円とする被告尾張瀬戸税務署長の法人税賦課処分、及び、同賦課処分に関し被告名古屋国税局長が昭和三五年五月一九日附でなした原告の審査請求を棄却するとの決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告の申立

主文同旨の判決。

第二、原告の主張

(請求原因)

一、原告会社は陶器製造販売を業とする法人であるが、昭和三一年度(昭和三一年三月一日から同三二年二月二八日まで、以下単に係争年度という)の所得金額を申告期限に遅れて申告したため、所管税務署長である被告尾張税務署長は、これを無申告とみなし、原告会社の財産若しくは債務の増減の状況等につき調査をなすことなく、係争年度の所得額の査定につき原告会社を同業種法人の柱法人と認定推計し、その所得金額を二八万八、八〇〇円と確定した。

二、しかしながら、原告会社の係争年度の損益計算は、次のとおり四五万八〇三〇円の欠損となるから、被告尾張瀬戸税務署長の賦課処分は不当である。

(1) 収入の部

純売上高 三五六万九、〇二八円

値引高 一一万七、八三〇円

売上原価 三四五万一、三七八円

(2) 支出の部

当期製造原価 三五七万五、八三三円

期首商品棚卸高 一万八、七二〇円

計 三五九万四、五五三円

期末製品棚卸高 二万三、八〇〇円

売上総欠損金 一一万九、三七五円

一般管理費及び販売費 一七万五、三八二円

支払利息割引料 一六万三、二七三円

当期純欠損金 四五万八、〇三〇円

三、そこで、原告は被告尾張瀬戸税務署長に対し再調査の申請をなしたが、同被告は昭和三四年七月二四日附をもつて右申請を棄却し、その旨原告に通知したので、原告は同年八月三日被告名古屋国税局長に対し審査の請求をなしたが、同被告は昭和三五年五月一九日附をもつて右請求を棄却し、その旨原告に通知した。よつて、被告尾張瀬戸税務署長の右賦課処分及び被告名古屋国税局長の右審査請求棄却の決定の取消を求めるため本訴に及んだ。

(被告等の主張に対する答弁)

一、(一) 一の(一)の(3)及び(4)は認めるが、(1)、(2)及び(5)は否認する。原告がその期日までに確定申告書を提出しなかつたのは故意又は著しい怠慢によるものではなく、税理関係の整理及び申告手続を依頼してあつた訴外江尻辰助の都合によるものであつた。(昭和三四年四月二七日原告のなした再調査請求の当時、原告会社には甲第一ないし第四号証が存したのであるから、これを詳細に検討すれば、原告の係争年度の所得金額が欠損であることは容易に判明したはずである。しかるに、被告尾張瀬戸税務署長は再調査の労を惜しみ、形式的な調査をなしたにすぎないから、同被告の再調査請求棄却の決定は違法である)。

(二)、(二)のうち、原告会社の窯容積が五〇〇立方尺であつたこと、係争年度の焼成回数が二三回であつたことは認めるが、その余は争う。しかして、被告尾張瀬戸税務署長のなした推計課税は、次の理由によりその推計の原因及び方法に違法がある。

(1)、原告会社の記帳技術に若干の不備があつたにしろ、当時金銭出納帳に代る甲第一、第二号証が存在したのであるから、これを詳細に調査するときは、その所得内容を明確に知り得たはずである。また、原告会社代表者田中由五郎の個人名義で当座取引があつたにしても、これはいずれも金繰りのための融通手形の割引取引であつた。この事実は被告が職権をもつて調査すれば直ちに明らかとなつたはずである。

(2)、しかしながら、仮に推計課税をなす必要があつたとしても、推計の基礎となる柱法人はその業種、規模において原告会社と同一乃至は極めて類似する同種の営業体を厳格に選択したのでなければならない。ところで、当時原告会社は白生地物の陶器類を製造するものであつて、白生地物の製造は、他の一般陶器類に比して不良品の出る可能性が多く、利益率が極めて低いので、一般陶器業者の利益率と同視することはできない。しかるに、原告会社の所在地域である瀬戸地方には、白生地専門の業者は存在しないので、原告会社の所得を推計する柱法人は同地方に存在しないことになるが、これを無視して漫然業種の異る他業者を柱法人としてなした被告の推計課税が違法なこと明らかである。

二、二の(一)の(3)のうち、(ハ)及び(ニ)は田中由五郎個人のものである(特に(ハ)の(a)ないし(g)は純粋に個人のもので、当時同人の給与は、その家族八名の収入を加えると一ケ月約七万七、〇〇〇円であつたが、右貯金はこの中から捻出されたものである)。また、(ト)ないし(ヌ)については、減価償却費を損金に算入するためには、被告等主張の如き要件を必要とするものではない。さらに、(ヲ)については、係争年度の前年税務署より承認を受けた貸借対照表の期末には繰越金は存しないので、係争年度になつて突然繰越金四二万四、五五五円を算定することはできない。

第三、被告等の主張

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因一項の事実は、原告会社が陶器製造販売を業とする法人であること、被告尾張瀬戸税務署長が原告会社の係争年度の所得金額を二〇万八、八〇〇円と確定したことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

二、同二項の事実は争う。

三、同三項の事実は、原告の被告尾張瀬戸税務署長に対する再調査の申請が昭和三四年七月二四日付で棄却され、その旨通知されたこと、さらに、原告の被告国税局長に対する審査請求も昭和三五年五月一九日付で棄却され、その旨通知されたことは、いずれもこれを認めるが、その余の事実は争う。

(被告等の主張)

一、(一)、原告会社の係争年度の課税については、次の事由により推計課税をしたものである。

(1)、原告会社は係争年度の確定申告書を提出しなかつた。

(2)、被告尾張瀬戸税務署長が原告会社の記帳状況を再三調査するも、これには一貫した正確な記帳がなされていない。即ち、原告会社には金銭出納帳すらないのである。

(3)、右記帳がない上に、原告会社名義以外の当座預金取引が、田中由五郎名義及び田中立志名義で、品野信用金庫及び瀬戸信用金庫品野支店で総額五〇〇万円位ある。

(4)、品野信用組合及び瀬戸信用金庫品野支店において、田中由五郎個人名義により商業手形の割引が総額二七〇万円位ある。勿論田中由五郎個人及びその家族は営業がない。

(5)、経費等(給料を除く)を記載した帳簿及び証拠書類も存しない。

(二)、しかして、推計計算を示すと次の如くである

(1)、推計売上高360万円×所得率5.8%=所得額20万8,800円

(2)、推定売上高三六〇万円の算定方法について

(イ)、原告会社の窯容積五〇〇立方尺(実際はこれを上廻るが、仕事に従事している田中薫の申述による)に立方尺当りの最低売上額三〇〇円を乗じると、一回の焼成当りの売上高は一五万円となる。

(ロ)、燃料仕入屯数一二二屯を一窯当りの使用料五屯で除すと、焼成回数は二四回となる。

(ハ)、右の(イ)の一五万円に右(ロ)の二四回を乗じると三六〇万円となる。

(3)、所得率五・八%について

営業規模・窯の大きさ・生産品目等から見て、原告会社と非常に類似している法人(柱法人)の所得率五・八%を採用したものである。

二、ところで、右所得金額の確定は明らかに適法であつて、原告会社の本訴請求は理由がない。以下、その理由を詳述する。

(一)、別表(一)の貸借対照表(昭和三六年七月五日付原告準備書面に添附のもの)を基礎とし、その後の原告主張額の援用及び被告の調査額により係争年度末の正しい貸借対照表を作成すると、次のとおりである。

(1)、原告が、昭和三〇年三月一日以降同三一年二月二九日迄の事業年度の法人税確定申告書に添附して被告に提出した係争年度の前事業年度末(昭和三一年二月二九日現在)の貸借対照表は、乙第四号証のとおりである。

(2)、乙第四号証を、本訴における原告主張額及び被告の調査額により修正すると、別表(イ)の貸借対照表(本訴による金額欄)のとおりとなる。

しかして、別表(イ)の貸借対照表の「本訴による金額」と「乙第四号証による金額」と異るものは、次のとおりである。

(イ)、普通預金 一万三、六五八円

瀬戸信用金庫品野支店における、田中由五郎名義の普通預金の昭和三一年二月二九日現在の残高である(乙第五号証)、右預金は、原告が瀬戸信用金庫品野支店において受取手形(融通のためのものを含む)を割引するに際し、手形額面金額の三分乃至五分を積立てた普通預金である。

(ロ)、掛金 七万五、〇〇〇円

原告が、昭和三一年三月二六日名古屋相互銀行瀬戸支店から三〇万円の借入金をするに先立つて、昭和三〇年一〇月二四日から、各月一万五、〇〇〇円宛右銀行に積立てた掛金の昭和三一年二月二九日現在の残高である(乙第六号証の一)。

(ハ)、受取手形 一〇万八、五〇〇円

原告が本訴において主張する(昭和三七年一〇月一七日附原告準備書面)、「受取手形の前期繰越額」一〇万八、五〇〇円である。

(ニ)、売掛金 二一万九、七七四円

原告が本訴において主張する(昭和三七年四月二日附原告準備書面添附の「昭和三一年三月中売上売掛明細表」の繰越残高欄)、昭和三一年三月中の売上売掛の繰越残高の合計額二一万九、七七四円である。

(ホ)、支払手形 三三万五、七五五円

原告が本訴において主張する(昭和三七年一〇月一七日附原告準備書面)、「前期繰越高」三三万五、七五五円である。

(ヘ)、買掛金 一五万九、五四三円

原告が本訴において主張する(昭和三七年四月二日附原告準備書面添附の「昭和三一年三月中仕入買掛明細表」の繰越残高欄)、昭和三一年三月中の仕入買掛の繰越残高の合計額一五万九、五四三円である。

(ト)、借入金 四万円

原告が、昭和二九年七月二一日国民金融公庫名古屋支所から借入れた一〇万円のうち、昭和三一年二月二九日現在の借入金残高である(乙第七号証の一)。

(チ)、融通手形割引 三九万三、六二六円

原告が本訴において主張する(昭和三七年一〇月一七日附原告準備書面)、「融通受取手形の割引前期繰越高」三九万三、六二六円である

(リ)、繰越金 四二万四、五五五円

右金額は、右(イ)から(チ)までを修正した結果導かれる、係争年度の前事業年度以前において発生した繰越(欠損)金と認められるものである。

(3)、別表(イ)の貸借対照表を基礎として、別表(一)の貸借対照表を、本訴における原告主張額及び被告の調査額により修正すると、別表(ロ)の貸借対照表のとおりである。

しかして、別表(ロ)の貸借対照表の「原告主張額」と「被告主張額」の異るものは、次のとおりである。

(イ) 当座預金 二〇円

瀬戸信用金庫品野支店における、原告名義の当座預金の昭和三二年二月二八日現在の残高である(乙第八号証)。これは、別表(イ)の貸借対照表の当座預金残高九八円に対応する。なお、「原告主張額」の当座借越四、九四〇円の該当預金は存しない。

(ロ) 掛金 二七万円

(a) 原告が、昭和三一年三月二六日名古屋相互銀行瀬戸支店から三〇万円の借入れをするに先立つて、昭和三〇年一〇月二四日から各月一万五、〇〇〇円宛右支店に積立てた掛金の、昭和三二年二月二八日現在の残高は二四万円である(乙第六号証の一)。なお、右掛金は、昭和三一年三月二六日に借入れ(給付)後は、返済金の一部になるものと認められるが、主張を明確にするため借入金と両建により表示したものである。

(b) 原告が、昭和三二年六月一二日右支店から二〇万円の借入れをするに先立つて、昭和三一年一二月一二日から各月一万円宛右支店に積立てた掛金の、昭和三二年二月二八日現在の残高は三万円である(乙第六号証の二)。

(c) 右(a)及び(b)の合計額が二七万円である。

(ハ)、普通預金 二万七、七三〇円

瀬戸信用金庫品野支店における、田中由五郎名義の普通預金の昭和三二年二月二八日現在の残高である(乙第五号証)。右預金は、原告が右支店において受取手形(融通のためのものを含)を割引きするに際し、手形額面金額の三分乃至五分を積立てた普通預金である。

(ニ)、仮払金 一〇万四、五〇〇円

瀬戸信用金庫品野支店における田中由五郎名義の普通預金(乙第五号証)から係争年度中に支払を受け、これを、次のとおり右支店における同人名義の各種定期積立預金に流用しているので、同人に対する仮払金(賞与)としたものである。

(a) 昭和三一年四月一〇日 二万円

福々定期積金一二万二、〇〇〇円の積立て二回分(乙第九号証)

(b) 昭和三一年五月二五日 一万円

福々定期積金一二万二、〇〇〇円の積立て一回分(乙第九号証)

(c) 昭和三一年六月一四日 一万円

福々定期積金一二万二、〇〇〇円の積立て一回分(乙第九号証)

(d) 昭和三一年九月二五日 一万三、五〇〇円

旅行積立金一回分(乙第一〇号証)

(e) 昭和三二年一月三〇日 二万〇、五〇〇円

三五一 月賦預金五万円の五回分(乙第一一号証)

(f) 昭和三二年二月八日 二万〇、五〇〇円

三五一 月賦預金五万円の五回分(乙第一一号証)

(g) 昭和三二年二月一二日 一万円

寿定期積金一〇万円の一回分(乙第一二号証)

(ホ)、受取手形 二万四、〇〇〇円

原告が本訴において主張する(昭和三七年五月二日附原告準備書面添附の「受取手形明細表」)、係争年度に割引又は裏書譲渡されていない受取手形三通の合計額である。

(ヘ)、製品 一五万〇、七〇〇円

棚卸資産の評価額は当該資産の種類(品名)・数量及び単価の三者により算出されるものであるところ、甲第四号証(昭和三二年度二月末日製品在庫現在表)には、次のとおり評価額の算出に誤りがあるから、被告において正当額に修正すると一五万〇、七〇〇円となる。

〈省略〉

(ト)、建物 一七万一、四九六円

(チ)、構築物 二二万四、九四五円

(リ)、機械 五万七、四〇六円

(ヌ)、什器備品 四万九、五五〇円

法人の各事業年度の所得の計算上、減価償却費を損金に算入することができるのは、法人が確定した決算書(株主総会の承認のあつたもの)において、減価償却額を確定計算し、法人税の確定申告書にその計算明細書を添附して、これを所轄税務署長に提出することを要件として、はじめて認められるものであるところ、原告会社には確定した決算書は存在せず、且つ法人税確定申告書を提出していないのであるから、減価償却額を係争年度の損金に算入することはできない。

しかして、原告が本訴において主張する減価償却額(昭和三六年七月五日附原告準備書面添附の「製造原価計算書」による)は、次のとおりであるから、固定資産の原告主張額に、それぞれ加算修正したものである。

〈省略〉

(ル)、建設仮勘定 五八万二、七六四円

原告は、昭和三六年五月六日附準備書面に添付の貸借対照表において、建設仮勘定は五〇万一、二〇〇円であると主張し、その後別表(一)の貸借対照表において、「建設分未払金額が記入漏れしていたので記入す」として未払金八万一、五六四円を計上しながら、建設仮勘定は依然として五〇万一、二〇〇円であるとしている。

しかしながら、右建設仮勘定五〇万一、二〇〇円は、次のとおり係争年度中にすでに支払つた金額(支払明細は原告記帳の金銭出納帳(乙第一七号証)よる)の合計額であり、原告主張のとおり建設仮勘定に係る未払金八万一、五六四円を貸借対照表に計上するのであれば、建設仮勘定の合計金額は、支払済額五〇万一、二〇〇円に未払額八万一、五六四円を加算した五八万二、七六四円でなければならない。

(a) 昭和三一年四月三〇日 六万円 大福製材

(b) 同年六月一五日 七万円 江尻利一

(c) 右同 四、〇〇〇円 右同

(d) 同年一二月三日 一八万円 大福製材

(e) 昭和三二年一月二二日 五万円 右同

(f) 同年二月二八日 一三万円 右同

(g) 右同 七、二〇〇円 右同

(ヲ)、繰越金 四二万四、五五五円

別表(イ)の貸借対照表の資産の部「本訴による金額」欄の繰越金である。

(ワ)、借入金 六八万円

原告が本訴において主張する(昭和三七年六月六日附原告準備書面添附の「借入金明細表」)、係争年度の借入金の合計額である。なお、被告の主張を明確にするため、原告が借入金の返済として経理した名古屋相互銀行瀬戸支店における掛金は、資産の部と両建経理した。

(a) 名古屋相互銀行瀬戸支店 三〇万円 昭和三一年三月二六日

(b) 国民金融公庫名古屋支所 二〇万円 昭和三一年一二月三日

(c) 戸田春三、高木光三郎 一八万円 右同

(カ)、法定積立金 一万七、〇〇〇円

(ヨ)、別除積立金 五、〇〇〇円

(タ)、税金引当金 二万五、〇〇〇円

(レ)、前期繰越金 二万六、〇三八円

別表(イ)の貸借対照表の負債の部に計上されている各金額に、同表の下欄に附記した利益処分の結果を加除することにより算出される正当な繰越金額である。

(ソ)、当期利益金 三六万八、四八四円

右(イ)から(レ)までを修正して導かれる、係争年度の利益金額である。

(二)、原告は、係争年度の所得金額は欠損四五万八、〇三〇円であると主張するのであるが、被告等の主張は次のとおりである。

(1)、別表(イ)の貸借対照表について

原告としては、本件訴訟において本来ならば係争年度の貸借対照表は、乙第四号証(原告の前事業年度末の貸借対照表)の各勘定科目の金額を基礎として計算すべきであるのに、これと異る金額を主張するので、被告等は、原告の主張額を基礎として、これを被告等の証査額により修正し、原告の昭和三一年二月二九日現在の貸借対照表を作成すると、別表(イ)のとおりとなるから、原告の前事業年度末の貸借対照表は、右のように修正されたものと考える。しかして、別表(イ)の貸借対照表によると、「負債の部」の合計額は一五〇万一、九六二円と算定され、他方「資産の部」の合計額は一〇七万七、四〇七円となり、差引四二万四、五五五円の資産不足額が生ずることとなる。この資産不足額は、昭和三一年二月二九日現在において他に資産のない本件においては、過去の欠損金額の累積額であり、繰越欠損金として表示されるべき金額である。

(2)、別表(ロ)の貸借対照表について

ところで、別表(イ)の貸借対照表を基礎として、被告等の調査したところにより原告の昭和三二年二月二八日現在の貸借対照表を作成すると、別表(ロ)のとおりとなるが、これによると、原告会社の係争年度の利益金額は三六万八、四八四円となる。即ち、原告会社は法人税法第二五条に規定する青色申告法人でないので、同法第九条第五項(昭和二五年法律第七二号)に規定する繰越欠損金の控除の適用を受けることができないから、結局、別表(ロ)の貸借対照表によつて算出される当期利益金三六万八、四八四円がそのまま係争年度の課税所得金額となる。

(3)、以上のように、前記推定所得金額二〇万八、八〇〇円は右所得金額三六万八、四八四円の範囲内であるから、被告等の決定は適法である。

第四、証拠

一、原告の立証

甲第一ないし第五号証を提出し、証人江尻辰助の証言及び原告会社代表者田中由五郎の尋問の結果を援用し、乙第一、第二、第四号証、第七号証の一、二、第一七、第一八号証の成立は認める。その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

二、被告等の立証

乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第四、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二、第八ないし第一八号証を提出し、証人下山善弘の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、当事者間に争いのない事実

原告が陶器製造販売を業する法人であること、原告が係争年度の確定申告書を申告期限までに提出しなかつたので、所管税務署長である被告尾張瀬戸税務署長はこれを無申告として取扱い、原告の係争年度の所得金額を二〇万八、八〇〇円と推計確定したこと、これに対し原告は再調査の申請をなしたが、該申請は昭和三四年七月二四日附で棄却され、その旨原告に通知されたこと、そこで原告は被告名古屋国税局長に対し審査の請求をなしたが、同請求も昭和三五年五月一九日附で棄却され、その旨原告に通知されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、ところで、原告は被告尾張瀬戸税務署長の推計課税の原因及び方法には違法があると主張するので、先づこの点につき判断する。

(一)、原告が係争年度の確定申告期限までに提出しなかつたことは、前認定のとおりであり、また、その後本件賦課処分があるまでに右確定申告書を提出したことを認め得る証拠はないから、被告尾張瀬戸税務署長としては、国税通則法第二五条及び法人税法第三一条第二項に則り、原告の係争年度の所得金額の算定につき、推計計算の方法を採り得たものであることは明らかである。ところで、原告は、本件賦課処分の当時原告会社には甲第一、第二号証が存在しており、また、田中由五郎個人名義の当座取引は金融のための融通手形の割引取引であつたから、これらの点を調査することなく直ちに推計計算の方法によつたのは違法である旨主張する如くであるが、推計課税自体は右条件の下にこれをなし得るものであつて、例えば、特別な事情がないのに全然調査をなさなかつた場合や、その調査方法が明らかに不当と思われる場合(調査の際に提示された帳簿を全然調査しなかつたような場合の如く)においては、推計計算の合理性を疑わしめる高度な事由となるから、そのことを理由として当該賦課処分を違法とすべき余地もあり得るが、単にその調査が不十分であるという場合においては、推計計算の方法が合理的である以上、これをもつて直ちに当該賦課処分を違法とすべきものではないと考える。

しかして、これを本件について見るに、証人江尻辰助の証言及び原告会社代表者田中由五郎の尋問の結果によれば、本件賦課処分当時、原告会社には甲第一、第二号証が存在したことを認め得るところ、右尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告尾張瀬戸税務署長はこれを調査しなかつたことが窺われるので、本件賦課処分に当り同被告の行つた調査が不十分であつたことは否定すべくもないが、反面、右証言及び尋問の結果並びに本件弁論の全趣旨を総合すれば、当時原告会社には経費明細帳が存しなかつた(その基礎伝票はあつたが)ので、同被告としては、一応原告会社の銀行取引につき調査をなし、従前の営業実績(原告会社は昭和二八年五月二八日に設立されている)をも加味して、後記認定の推計計算をなしたものであることが推認される、右調査の不十分な点のみを理由に、本件賦課処分を違法とみなすのは相当でない。

(二)、そこで進んで、被告尾張瀬戸税務署長の推計計算の方法が合理的であるか否かにつき考察する。

先づ、右被告のとつた右推計計算の方法は、原告会社の窯容積が少くとも五〇〇立方尺であることを前提として、立方尺当りの最低売上額を三〇〇円、年間焼成回数二四回という認定の下に、その所得率を五・八%として、原告会社の係争年度の所得金額を算定したものである。しかして、原告会社の窯容積が五〇〇立方尺あつたことについては当事者間に争いがなく、又、立方尺当りの最低売上額については、弁論の全趣旨によつて成立を認める乙第三号証の一ないし四(前掲尋問の結果を合わせて考えると、同号各証は被告等主張の如く瀬戸及び品野に所在する原告会社と類似の法人を対象として作成されたものであることが推認される)によれば、同種業者の立方尺の売上額はいずれも三〇〇円を上廻つていることが認められるので、原告会社の立方尺当りの最低売上額を三〇〇円としたのは相当と認められる。さらに、年間焼成回数については、原告会社の年間焼成回数が二三回あつたことは原告も自認しており(これに反する右尋問の結果はにわかに措信できない)、また、被告の算定した売上高三六〇万円と、原告の主張にかかる売上高三四五万一、三七八円とは、その間不当と思われるほどの違いもないので、原告会社の焼成回数を二四回としたのは結局相当と認められる。最後に、所得率についてであるが、前掲乙第三号証の一に照すと、原告会社の所得率を五・八%としたのは一応相当と認められる。

(三)、以上認定の如く、右被告の推計計算の方法は合理的なものとして是認できるので、これが不当であつて違法である旨の原告の主張は理由がない。従つて、被告の推定所得金額二〇万八、八〇〇円は、原告の係争年度における正当な所得金額と推定すべきである。

三、原告会社の係争年度の貸借対照表につき、原告は別表(一)のとおりであると主張し、被告等は別表(ロ)のとおりであると主張するので、この点につき判断する。

(一)、先づ、原告会社の係争年度の前事業年度末の貸借対照表について考察するに、原告が前事業年度の確定申告に添附して提出した貸借対照表が乙第四号証であることは争いがないが、原告の主張及び被告等の立証(乙第五号証、同第六号証の一は証人下山善弘の証言によつて成立を認め、乙第七号証の一は成立に争いがない)するところによれば、乙第四号証の貸借対照表は、被告等主張のように別表(イ)の貸借対照表(本訴による金額欄)のとおり修正さるべきものであることが認められる。従つて、原告会社の係争年度末の貸借対照表は、修正された別表(イ)の貸借対照表(本訴による金額欄)を基礎とすべきことも、被告等主張のとおりである。

(二)、そこで次に、原告会社の係争年度末の貸借対照表について考察すると、別表(ロ)の貸借対照表のうち、原告主張額と被告等主張額とが相違する点は、以下のとおりに認定する。

(1)、資産の部

(イ)、当座預金 二〇円

証人下山善弘の証言及びこれによつて成立を認める乙第八号証により、被告等主張のとおりであることを認め得る。

(ロ)、掛金 二七万円

右証言及びこれによつて成立を認める乙第六号証の一、二により、被告等主張のとおりであることを認め得る。

(ハ)、普通預金 二万七、七三〇円

右証言及びこれによつて成立を認める乙第五、第一三号証により、被告等主張のとおりであることを認め得る。

(預金の趣旨も同様であることが推認される)。

(ニ)、仮払金 一〇万四、五〇〇円

右証言及びこれによつて成立を認める乙第五、第九ないし第一二号証により、被告等主張のとおりであることを認め得る。

(ホ)、受取手形 二万四、〇〇〇円

原告の主張自体により、被告等主張のとおりであることを認め得る。

(ヘ)、製品 一五万〇、七〇〇円

成立に争いのない甲第四号証により、被告等主張のとおり修正すべきものであると認め得る。

(ト)、建物 一六万六、二四九円

(チ)、構築物 二〇万四、七〇〇円

(リ)、機械 五万四、八二三円

(ヌ)、什器・備品 四万七、三二六円

以上の(ト)ないし(ヌ)は、原告主張のとおりと認むべきである。即ち、一般的に減価償却には確定申告は要件ではなく、また、弁論の全趣旨によれは、原告会社は係争年度の減価償却をその主張のとおりなしたものであることが推認される。

(ル)、建設仮勘定 五八万二、七六四円

成立に争いのない乙第一七号証及び別表(一)の貸借対照表によれば、被告主張のとおりであることを認め得る。

(ヲ)、繰越金 四二万四、五五五円

被告等主張のとおり計上すべきものである。

(2)、負債の部

(ワ)、借入金 六八万円

原告の主張自体により、被告等主張のとおりであることを認め得る(なお、これは(1)資産の部の(ロ)と被告等主張のような意味で両建経理した)。

(カ)、法定積立金 一万七、〇〇〇円

別表(イ)の貸借対照表(本訴による金額欄)の負債の部に計上されている金額に、利益処分欄の金額を加算して導かれる。

(ヨ)、別除積立金 五、〇〇〇円

原告主張の金額を認め得る証拠はないので、別表(イ)の貸借対照表(本訴による金額)のまま計上した。

(タ)、税金引当金 二万五、〇〇〇円

別表(イ)の貸借対照表の利益処分欄の金額を計上した。

(レ)、前期繰越金 二万六、〇三八円

別表(イ)の貸借対照表の利益処分欄より、被告等主張のとおり導かれる。

(ソ)、当期利益金 三三万八、一八五円

以上のように確定した貸借対照表により導かれる係争年度の利益金額である。

四、ところで、原告会社は法人税法第二五条に規定する青色申告法人ではないので、同法第九条第五項(昭和二五年法律第七二号)の適用を受けることができないことは、被告等主張のとおりであるから、右認定にかかる当期利益金三三万八、一八五円が原告会社の係争年度の所得金額となる。従つて、被告尾張瀬戸税務署長の推定所得金額二〇万八、八〇〇円は、右所得金額三三万八、一八五円の範囲内であるから、同被告の本件賦課処分が相当であること明らかであり、被告名古屋国税局長の本件再審請求棄却の決定ももとより相当である。

よつて、原告の本訴請求は理由がないものとして棄却すべく訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 可知鴻平 裁判官 寺本栄一)

貸借対照表 別表(一) (自昭和31.3.1・至32.2.29現在)

〈省略〉

(注)(39)~前期支払計算相違分を訂正。(40)~建設分の未払金額が記入洩れしていたので記入。(41)乃至(44)~前期残存価格より減価償却されずに記入されていたので、減価償却して記入。(45)~製造原価計算記入の期首仕掛品棚卸高20,826円が正確であるのに、4,600円と記入した誤記につき訂正。減価償却額を正確に計算した結果の相違である。

貸借対照表 別表(イ) (昭和31.2.29現在)

〈省略〉

利益処分(乙第四号証による)

前期繰越金 10,642 法定積立金 10,000

当期利益金 50,396 税金引当金 25,000

計 61,308 後期繰越金 26,308

計 61,308

貸借対照表 別表(ロ) (昭和32.2.28現在)

〈省略〉

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